工場の損益を眺めていると、材料費や人件費の陰に隠れて、じわじわと利益を削り取っている項目があります。水道代です。
野菜の下洗いに、ボイラーへの給水に、ライン洗浄に、冷却水の補給に——食品製造の現場では、水は空気と同じくらい当たり前に使われています。だからこそ、その費用を「どうにかなるもの」として後回しにしてきた工場も多いのではないでしょうか。
この業界が抱える「水」の問題
食品・飲料工場の水使用量は、業種によって差はあるものの、中規模の工場で月に数百トンから数千トンにのぼることが珍しくありません。野菜の洗浄ラインを持つ加工工場では、1日に100トンを超える工場も存在します。
問題は、この水量に対して水道料金がほぼ比例して発生することです。上水道の場合、使用量が増えるほど単価も上昇する逓増制が多く、大量使用者にとって不利な料金体系になっています。さらに、工場立地によっては下水道料金が別途かさみ、月に数十万円から百万円超になるケースもあります。
加えて、HACCPや食品安全管理の観点から「水質の安定性」への要求も高まっています。季節による水質変動や、断水時のライン停止リスクは、生産計画にも影響します。
課題解決のために検討される選択肢
水コスト削減を検討したとき、多くの工場が最初に検討するのは次の3つです。
① 排水リサイクルシステムの導入 使用後の水を処理・再利用する閉鎖循環システムです。環境負荷も下げられる一方、導入・維持コストが高く、食品用途では衛生基準のクリアが難しいケースもあります。
② 節水型設備への更新 洗浄機や冷却塔を省水型に替える方法です。効果は出ますが、設備更新費用がかかり、削減できる量には限界があります。
③ 井戸の掘削 地下水を自社で取水する方法です。初期投資はかかりますが、ランニングコストを大幅に下げられる可能性があります。
井戸掘削を選んだ場合のメリット
食品工場が井戸を導入した場合、最もわかりやすいのは水道代の削減です。取水量にもよりますが、上水道から井戸水に切り替えることで、工場用水の費用を5割〜8割程度削減できた事例があります。
具体的に計算してみましょう。月の水道料金が80万円の工場が、使用量の70%を井戸水で賄えるようになれば、年間で約670万円のコスト削減になります。井戸の掘削費用が500〜800万円程度と仮定すると、1〜2年程度で初期投資を回収できる計算です。
また、井戸水は地下から安定して取水できるため、干ばつや渇水時にも供給が途絶えにくいという安定性もあります。自前の水源を持つことは、生産継続リスクの低減にもつながります。
水質の観点では、地下水は地層によって自然にろ過されており、硬度・pH・微生物数など一定の基準を満たせばHACCPの工場でも活用できます。実際に、豆腐・清酒・飲料メーカーなどでは「仕込み水」として井戸水を使い続けている例が多数あります。
知っておくべきデメリットと、その向き合い方
水質が保証されていない 地下水の水質は、掘削してみないと正確にはわかりません。砒素・フッ素・硝酸性窒素など、地域によっては食品用途に使えない成分が含まれることがあります。
→ 対策: 掘削前に地質調査・水質概況調査を行い、用途に合う水質かを確認します。食品製造に使う場合はRO膜(逆浸透膜)などの処理設備を組み合わせることで、ほとんどの水質課題に対応できます。
許認可と届出が必要 工業用の揚水には、地下水採取に関する都道府県の条例・規制への対応が必要です。地域によっては取水量の上限が設けられています。
→ 対策: 掘削業者や行政書士と連携し、事前に規制内容を確認します。大半の場合は届出と水質検査の実施で対応できます。
設備故障時のリスク ポンプや配管が故障した場合、一時的に取水できなくなります。
→ 対策: 上水道との二系統構成にしておき、トラブル時のバックアップを確保します。多くの工場では「通常は井戸水、非常時は上水道」という形で運用しています。
水道代は、見直せる固定費の中でも規模感が大きい部類です。掘削の可否や水質は、現地を調査しないとわかりません。まずは「うちの場所で掘れるのか」を確認するところから始めてみてください。