大規模倉庫・物流センター 対象:総務部長・防災担当

物流センター・大規模倉庫が井戸を必要とする理由——「物流を止めない」ための水源確保

大型物流施設では災害時に数百人の従業員が働き続けます。断水時のトイレ・飲料水確保は、社会インフラとしての責任とBCP対策の核心です。

物流センターに防災担当として関わっている方なら、一度はこんな問いに向き合ったことがあるかもしれません。「うちの施設が大規模地震で断水したとき、従業員のトイレと飲料水はどうする?」

ECサイトの急拡大に伴い、郊外・臨海部に巨大な物流拠点が増えています。数百人〜数千人の従業員が24時間シフトで働く施設も珍しくありません。社会インフラとして期待される物流を「止めないこと」は、企業責任であるとともに、地域社会への貢献でもあります。

この業界が抱える「水」の問題

物流センターの水問題は、主に「非常時の確保」という観点から浮かび上がります。

平時の水使用量は飲料・手洗い・トイレ・清掃が中心で、製造業や食品工場に比べて少ない施設が多いです。水道代が経営課題になることは少ないでしょう。

問題は「有事」です。

断水時の在籍人員規模 500人規模の物流センターでは、断水時にも多くの従業員が出勤しています。1人が1日に必要とする水(飲料・トイレ・手洗い)はおおむね20〜50リットル。500人分で1日10〜25トンの水が必要です。

受水槽(貯水タンク)だけでは、数日分の備蓄が限界です。阪神淡路大震災や東日本大震災では、断水が数週間〜数ヶ月続いた地域があります。貯水で凌げる期間は有限です。

物流を止められない社会的責任 医薬品・食料品・生活必需品を扱う物流センターは、災害時こそ重要度が高まります。「水がないから操業停止」は、企業としてのみならず社会的にも許されない状況が生まれつつあります。BCP(事業継続計画)の認証(ISO 22301など)を取得・維持する企業では、水源の確保は計画書に明記すべき要件です。

課題解決のために検討される選択肢

① 受水槽・貯水タンクの大容量化 敷地内に大きなタンクを設置して備蓄量を増やす方法です。コストは比較的抑えられますが、設置スペース・重量荷重の制約があります。また、定期的な清掃・水質管理が必要で、長期断水(1ヶ月超)には対応できません。

② 自治体・給水業者との事前協定 給水車の優先手配を事前に契約する方法です。ただし、大規模災害時には業者が被災したり、需要が集中して手配できなくなるリスクがあります。

③ 社員寮・近隣施設との相互協定 周辺施設との水の融通協定です。効果は状況に依存し、自給自足にはなりません。

④ 自家井戸の掘削 自前の恒久的な水源を持つ方法です。

井戸掘削を選んだ場合のメリット

物流センターへの井戸導入の主なメリットは「永続性」と「独立性」です。タンクの水は減ればなくなりますが、井戸は揚水ポンプが動く限り水を供給し続けます。

非常用電源(発電機)と組み合わせることで、停電・断水が重なった状況でも水の供給を継続できます。「水のBCP」として、発電機と井戸はセットで考えることが一般的です。

平時の節水効果 非常時対策が主目的であっても、平時から井戸水をトイレ洗浄・清掃・散水に活用することで、水道料金の削減も実現できます。大型施設では年間数十万円〜数百万円の削減が見込める場合があります。

ESG・BCP認証への貢献 投資家・取引先に対してBCP対応状況を示す機会が増えています。自前の水源確保は「防災・強靱化投資」の実績として対外的にアピールできる取り組みです。

知っておくべきデメリットと、その向き合い方

大型施設の敷地では地下に埋設物が多い 大型物流センターの敷地には、電気・ガス・通信・排水などの埋設インフラが複雑に存在します。掘削位置の選定に制約が生じることがあります。

対策: 施設の埋設物図面を事前に確認し、掘削業者と位置を検討します。駐車場・緑地帯など空きスペースを活用できることが多いです。

揚水ポンプは停電時に動かない 電動ポンプは停電すれば動きません。

対策: 非常用発電機と連動した回路を設計します。既存の発電設備に揚水ポンプの電力を追加することで対応できます。

飲料水として使う場合は水質検査が必要 地下水を飲料水として提供する場合は、水道法の水質基準に準じた検査が必要です。

対策: 用途を「トイレ・清掃・散水」に限定することで、飲料基準の適用を回避できます。飲料用は別途ペットボトル備蓄を組み合わせる設計にするのが現実的です。


「いつか来るかもしれない断水」への備えは、費用対効果が見えにくく後回しにされがちです。しかし、一度整備すれば数十年にわたる安心をもたらします。まず「この立地で掘れる水量があるか」を確認し、投資計画に組み込む検討から始めてみてください。

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