陸上養殖の立地選定で最も重視されることのひとつが「水源の確保」です。特に、大西洋サーモンやバナメイエビのような温度に敏感な魚種を育てる施設では、「どんな水がどれだけ取れるか」が事業の成否を左右すると言っても過言ではありません。
この業界が抱える「水」の問題
陸上養殖が抱える水の課題は、「量」と「温度管理コスト」の2つに集約されます。
量の問題 閉鎖循環式(RAS)であれ掛け流し式であれ、魚を育てるためには継続的な大量の水が必要です。掛け流し式では新鮮な水を常に供給し続ける必要があり、RASであっても定期的な換水が欠かせません。
上水道から大量取水するとコストが膨大になります。サーモンの大規模養殖施設では、水道代だけで月に数百万円に達することがあります。
温度管理コストの問題 サーモン(大西洋サーモン・銀鮭)は低水温を好む魚種です。育成に適した水温はおおむね10〜16℃。夏場に海水や上水道の水を使おうとすると、チラーで冷却する必要があります。このエネルギーコストが陸上養殖の採算性を大きく左右します。
バナメイエビは逆に温水(25〜30℃)を好みますが、冬季の加温コストが課題になります。
課題解決のために検討される選択肢
① 海水・河川水の引き込み(沿岸・河川立地) 海辺・河川沿いに立地する施設は、自然水源を活用できます。しかし、内陸や都市近郊の施設では引き込みが困難です。また、海水は塩分管理・付着生物・病原菌のリスクがあります。
② 閉鎖循環式(RAS)の高度化 水の再利用率を高めることで使用量を減らします。最新のRASでは新水補給量を1日あたり数%まで下げることも可能ですが、設備コストが高く、酸素・CO2・アンモニアの精密管理が必要です。
③ 地下水(井戸水)の活用 年間一定温度の地下水を水源として使う方法です。
井戸掘削を選んだ場合のメリット
陸上養殖における地下水活用の最大のメリットは「水温の安定」です。
日本の地下水は、深さ・地域にもよりますが、一般的に年間を通じて15〜17℃前後を維持します。この温度帯はサーモンの育成に理想的な範囲です。つまり、地下水を使えば「夏でも冷却不要、冬でもほぼ加温不要」というエネルギーコストのかからない環境を作れます。
電力を使った冷却・加温のコストがなくなることは、陸上養殖の採算性に直接貢献します。エネルギーコストは陸上養殖の総コストの中で大きな割合を占めるため、この削減効果は事業計画上の重要な優位性になります。
また、地下水は塩素を含まないため、魚に対する塩素ストレスがなく、水処理システムへの負荷も小さくなります。大腸菌などの細菌リスクが低い清潔な原水は、魚病対策の観点からも好ましいです。
知っておくべきデメリットと、その向き合い方
一本の井戸では水量が不足する場合がある 大規模な陸上養殖施設が必要とする水量は、一般的な産業用途より大きいことがあります。1本の井戸の揚水量では対応しきれないケースがあります。
→ 対策: 複数本の井戸を掘削するか、掛け流しではなくRASで水の再利用率を高めることで対応します。事業規模に合わせた水源設計が重要です。
飼育魚種によっては地下水の水質調整が必要 地下水は溶存酸素が低い場合があります(酸素が地中で消費されるため)。そのまま使うと魚が酸欠になります。
→ 対策: 地下水を散気(エアレーション)して酸素を溶解させる処理を行います。これは比較的低コストで実施できる基本的な前処理です。
地下水の継続的な揚水による水位低下 大量取水を続けると、局所的な地下水位の低下が起きることがあります。
→ 対策: 揚水量のモニタリングと定期的な水位計測を実施します。取水量に応じた届出・許可が必要な地域もあるため、事前に都道府県の担当窓口に確認します。
陸上養殖事業における水源は、事業の根幹です。立地選定の段階から地下水の賦存状況を確認し、事業計画に組み込むことが重要です。まずは地質調査で「この立地に何トン/日取れるか」を確認してみてください。