「電気代を下げながら、CO2も減らせる方法はないか」
上場企業のESG担当者や、自社ビルの省エネ化を推進する環境推進部門の方が、このテーマに辿り着くのはそう難しくありません。再生可能エネルギーの自家発電(太陽光)、LED照明への切り替え、高効率空調への更新——そうした施策を一通り実施した企業が次に目を向けるのが「地中熱」です。
この業界が抱える「水」の問題
地中熱ヒートポンプシステムには、大きく2つの方式があります。
クローズドループ方式(地中熱交換器方式) 地中に配管を埋設し、熱交換流体を循環させる方式です。地下水を直接汲み上げません。
オープンループ方式(地下水熱利用方式) 地下水を直接汲み上げ、熱交換後に戻す(還元井方式)か排水する方式です。
オープンループ方式は、地下水の温度(年中約15度)を直接活用できるため、クローズドループ方式よりも熱交換効率が高く、初期工事費が低い場合があります。夏は地下水が冷熱源として機能し(冷房効率向上)、冬は温熱源として機能します(暖房効率向上)。
このオープンループ方式の前提となるのが「安定した地下水の取水と管理」、つまり井戸です。
地中熱ヒートポンプの「水の問題」は、地下水を安定して取水・管理できるかという点にあります。また、地域によっては地下水の揚水規制があるため、事前の調査と法令確認が不可欠です。
課題解決のために検討される選択肢
① 空気熱源ヒートポンプ(エアコン)の高効率化 最新の空気熱源ヒートポンプは省エネ性能が大幅に向上しており、現在の設備が古い場合は更新だけで大きな削減効果が得られます。初期コストは地中熱より低い場合が多いです。
② 太陽光発電との組み合わせ 空調の電力消費を再生可能エネルギーで賄う方法です。CO2削減の観点では有効ですが、電力コスト削減にはPPA(電力購入協定)の設計が重要です。
③ クローズドループ方式の地中熱ヒートポンプ 地下水を汲み上げないため揚水規制の影響を受けにくいですが、掘削本数が多くなりやすく工事費が高くなる傾向があります。
④ オープンループ方式(地下水熱利用)の地中熱ヒートポンプ 井戸を活用した地下水熱の直接利用です。
地下水熱利用を選んだ場合のメリット
地下水熱利用ヒートポンプの省エネ性能を示す指標がCOP(成績係数)です。通常の空気熱源ヒートポンプのCOPが3〜4程度であるのに対し、地下水熱利用では5〜7程度のCOPが達成されることがあります。
これは、冷暖房に使う電力あたりの空調能力が1.5〜2倍以上になることを意味します。電気代は同じ空調効果を得るのに、大幅に少なくて済みます。
ESG経営への組み込み 地中熱利用はCO2排出量削減の実績として定量化しやすく、サステナビリティレポートへの記載・SBT(科学的根拠に基づく目標)設定・CDP開示への貢献が期待できます。「電力消費量の削減」という形で、Scope 2(間接排出)の削減に直結します。
補助金の活用可能性 地中熱利用設備は、経済産業省・環境省の省エネ補助金(省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業等)の対象になることがあります。補助金の種類・要件は毎年変わるため、最新情報の確認が必要ですが、初期投資のハードルを下げる手段として積極的に調べる価値があります。
知っておくべきデメリットと、その向き合い方
地下水の揚水規制への対応が必要 都市部の多くでは、地下水の過剰揚水による地盤沈下防止のために揚水量の規制があります。オープンループ方式では、規制の範囲内で設計することが必須です。
→ 対策: 事前に都道府県の担当窓口で揚水可能量を確認し、システム容量の設計に反映します。還元井(汲み上げた地下水を地中に戻す方式)を採用することで、揚水量の規制を受けにくい設計にできるケースもあります。
地質・水質によっては効率が変わる 地下水の水温・賦存量・水質は地域ごとに異なります。塩分濃度の高い地下水は腐食リスクがあり、硬水は熱交換器にスケールが付きやすくなります。
→ 対策: 事前の地質調査・水質分析をもとにシステムを設計します。機器の材質選定・水処理設備の追加で多くの課題は解決できます。
初期投資が通常空調より高い 地中熱ヒートポンプシステムは、設備・掘削・工事込みで通常の空調より初期費用が高くなります。
→ 対策: 電気代削減による回収期間を試算し、ライフサイクルコスト(LCC)で評価します。補助金活用込みで7〜15年での回収を目安にするケースが多いです。
脱炭素と省エネを両立する手段として、地中熱は有力な選択肢のひとつです。まず「この立地で地下水がどれだけ取れるか」という地質調査を実施し、システム設計の基礎情報を得ることから検討を始めてください。