梅雨が明けた7月の朝、グリーンキーパーはコースを見渡しながら考えます。この暑さが続けば、フェアウェイは何日で焼ける。グリーンの芝は持つか。散水のスケジュールをどう組むか——。
ゴルフ場の芝管理は、見た目の美しさだけでなく、コースのコンディション、ひいては集客力に直結します。そしてその芝管理の根幹を支えているのが、安定した水の供給です。
この業界が抱える「水」の問題
18ホールのゴルフ場の面積は、コースレイアウトによりますが、おおむね50〜100ヘクタールに及びます。その全体——フェアウェイ、グリーン、ラフ、法面——に散水するために必要な水量は、1日あたり数十トンから、夏季の高温乾燥期には数百トンを超えることもあります。
上水道でこの量を賄おうとすれば、コストは月に数百万円規模に達することがあります。多くのゴルフ場が「上水道だけで芝を維持しようとすると、採算が取れない」という現実に直面しています。
そのため、歴史あるゴルフ場の多くは、コース内の池や調整池、隣接する河川・水路からの取水を組み合わせて水を確保してきました。しかし、これらの水源も万全ではありません。渇水年には取水量の制限がかかり、水質問題が生じることもあります。干ばつや水不足が激化する気候変動の時代に、水源の多様化・安定化は経営課題として浮上しています。
課題解決のために検討される選択肢
① コース内調整池・貯水池の活用・拡張 雨水や融雪水を貯めて活用する方法です。多くのゴルフ場がすでに実施していますが、容量に限界があり、降水量の少ない年には不足します。
② 散水システムの効率化(自動化・センサー制御) 土壌水分センサーと連動した自動散水システムにより、無駄な散水を削減します。スマート農業の手法をゴルフ場管理に応用したアプローチです。水量削減効果はありますが、ゼロにはなりません。
③ 近隣の河川・農業用水からの許可取水 水利権を取得して周辺の水源から取水する方法です。許可取得に時間がかかり、水利権調整が複雑なこともあります。
④ 自家井戸の掘削 地下水を自前で取水する方法です。複数本掘削することで大量取水に対応できます。
井戸掘削を選んだ場合のメリット
ゴルフ場が井戸を持つことの最大のメリットは、「渇水の影響を受けない安定供給」です。地下水は降水量の短期変動の影響を受けにくく、旱魃時にも安定して取水できます(過度な揚水は地下水位を下げるため注意が必要です)。
コスト面では、コース散水に使う水の全量または大部分を井戸水で賄うことで、水道料金の大幅な削減が可能です。すでに調整池を持つゴルフ場では、井戸を組み合わせることで「雨水+地下水」の二本立てとし、上水道への依存をほぼゼロにする運用が可能です。
水質の点では、地下水はカルキを含まず、一定の温度・ミネラルバランスを持つため、芝の生育にとって上水道よりも相性が良いケースがあります(ただし塩類濃度が高い水域では逆効果になることもあり、水質確認が必要です)。
知っておくべきデメリットと、その向き合い方
ゴルフ場の規模には複数本の井戸が必要なケースが多い 1本の井戸で取水できる量には限りがあります。大量の散水需要を賄うには、複数本の井戸を掘削する必要があることが多く、初期費用が大きくなります。
→ 対策: 全量を井戸水に置き換えるのではなく、「既存の調整池・取水源を補完する形で井戸を追加する」アプローチにすることで、1〜2本の追加掘削で大きな効果を得られます。
揚水量の継続的なモニタリングが必要 地下水を大量に取水し続けると、地下水位が低下する可能性があります。
→ 対策: 揚水量の記録と定期的な水位測定を実施します。取水量が多い施設では自治体への届出が必要な場合もあり、法令遵守の観点からも管理が重要です。
塩類濃度の高い地域では芝への影響注意 一部の地域では、地下水に塩化物や硫酸塩が多く含まれることがあり、散水を続けると土壌塩害を引き起こすことがあります。
→ 対策: 掘削前の水質分析で確認します。問題が確認された場合は、グリーンなどデリケートな箇所への使用を避け、ラフ・法面への散水に限定する運用で対応できます。
コースの水問題は、見た目の芝のコンディションだけでなく、コース管理費用全体に影響します。まず地質調査で「このコースにどれだけの地下水が期待できるか」を確認し、既存の水源との組み合わせを設計することから検討を始めてみてください。